普通が普通に写るレンズ。Leica Summicron 35mm F2 6枚玉を手に入れた

Leica

Summicronに再び足を踏み入れる

ライカを使い始めた頃、初めて購入したレンズが現行のSummicron 50mmでした。
(当時のレビュー記事:https://sogosight.com/archives/10467.html
当時はSONY α7R IVにマウントアダプター経由で使用していましたが、正直なところ、当時の自分にはあまり合わないと感じていました。
その後、Summilux 50mmの生み出す世界に魅了されて手に入れることになり、初期のSummicronは手放すことに。それ以来、「自分にはSummicronは合わないのかもしれない」という先入観を持ったまま、長い間手を出すことはありませんでした。

ただ、今振り返ると当時はSONYのボディとの組み合わせでしたし、センサーとの相性も少なからずあったのだと思います。
「M型ライカやSLシリーズで本来のマウントとして使えば、また違った印象になるのではないか」
そんなことを思い始めた頃、今回紹介する35mm Summicron 6枚玉と出会いました。




Leica Summicron 35mm F2 6枚玉とは

35mm Summicron 6枚玉は、伝説的な人気を誇る8枚玉の後継として1969年頃に登場し、およそ1979年頃まで製造されたレンズです。
非球面レンズがまだ使われていない時代の、球面レンズのみで構成された設計。わずかに残された球面収差がもたらす独特の描写が最大の魅力です。シャープでありながら、どこか優しく柔らかい。そんなライカらしい空気感を纏っています。

■ スペック概要

※Series VII(シリーズ7)規格のため、フィルター運用には純正フードに挟み込む等の工夫が必要です。また、製造時期によって前期(ツノあり)と後期(ツノなし)に分かれます。
項目 内容
レンズ名 Leica Summicron-M 35mm F2(6枚玉)
発売年 1969年
製造終了年 1979年頃
レンズ構成 4群6枚(球面レンズのみ)
開放F値 / 最小絞り F2 / F16
絞り羽根枚数 10枚
最短撮影距離 0.7m
フィルター径 Series VII(シリーズ7)※固定用アダプター等が必要
マウント Mマウント(6bitコードなし)
重量 / 全長 約200g〜250g(軽量コンパクトな鏡筒)
製造国 カナダ(LEITZ CANADA) / ドイツ(LEITZ WETZLAR)
自分が購入した個体は、ピントレバーに突起がある、いわゆる「ツノあり」と呼ばれる前期タイプ。シリアルナンバーから調べると1970年代初頭に作られたもののようです。

レンズの鏡筒には「LEITZ CANADA」の刻印。ミーハーな自分としては、「カナダ製だ。すげー。」なんて、手にしただけで少しテンションが上がってしまいました(笑)。


購入時には純正フード(12504)も付属していましたが、これが驚くほど外れやすいのが玉にキズ。その後、運良く純正のメタルキャップを手に入れてからは、そちらをメインに使っています。

仕様にも書いた通り、このレンズはSeries VIIという特殊なフィルター規格。一般的な保護フィルターをダイレクトに装着できないため、持ち歩く時はガラス面に少し気を遣います。


私の個体は、前玉にもそれなりの使用感(拭き傷など)があります。実際の写りへの影響は全く感じませんが、部屋でまじまじと見つめると、少しげんなりしてしまうことも……。たぶん、変なところで潔癖症なんでしょうね(笑)。
「だったらオールドレンズに手を出すな」という話ですが、逆にここまで使い込まれて歴史を重ねてきた個体だからこそ、「傷を恐れず、ガシガシ日常に連れ出そう」と思える、相棒のような一本でもあります。




8枚玉・6枚玉・7枚玉の違い

35mm Summicronの球面時代は、大きく分けると以下のような系譜になります。
  • 8枚玉(第1世代):初代にして伝説。柔らかく立体的なボケ味で今なおカリスマ的な人気を誇る。
  • 6枚玉(第2世代・第3世代):今回紹介するレンズ。コンパクト化とコストパフォーマンスを両立。
  • 7枚玉(第4世代):さらにブラッシュアップされ、海外では「King of Bokeh(ボケの王様)」と称される名作。
※この後に非球面レンズを採用した現行の「ASPH.」へと続いていきますが、ここではあくまで球面レンズならではの味わいを比較するため、割愛させていただきます。

8枚玉や7枚玉は、オールドライカ市場でも非常に価格が高騰しており、状態の良いものは簡単には手が出せない高嶺の花になっています。
一方、この6枚玉は、ライカのヴィンテージレンズとしては比較的現実的な価格帯で見つけることができます。もちろん近年は徐々に上がっていますが、まだ20万円台で出会えるチャンスもあり、Summicron本来の「スナップシューターとしての血統」を味わうには、極めて現実的かつ魅力的な存在だと言えます。




購入したきっかけ

そもそも、なぜあまり良い印象を持っていなかったSummicronを、今になって手に入れようとしたのか。

本音を言えば、もともとSummicronよりは「Summilux 35mm 2nd(球面)」が欲しかったのです。しかし、市場を見渡しても状態の良い玉が本当になく、価格も高騰しすぎていて、当時の自分には到底手が出せませんでした。

ただ、あの35mm特有の極めてコンパクトな佇まいは、手持ちの50mmレンズたちとは明らかに違う。いずれはあのサイズ感の35mmを一本手に入れたい……そう願っていた中で、巡り合ったのがこの6枚玉でした。

外観のコンパクトさは欲しかったSummilux 2ndとほぼ同等。それでいて価格は倍近く違う。「果たして、開放F1.4とF2の差、出来上がる描写のキャラクターの差に、倍の金額を払う価値があるのだろうか?」と考えました。自分には勝負用の現代レンズとして「Summilux 35mm F1.4 ASPH.(現行4th)」があり、その描写には100%満足している。ならば、日常のスナップ用としてはF2のこれで十分じゃないか、と。

しかも、購入時にショップの方が若干無茶な値下げ交渉にも快く応じてくださり、これはもう「買わざるを得ない状況」になってしまった、という運命的なタイミングもありました。




実際に撮ってみた

ここからは、この6枚玉がどんな世界を見せてくれたのか、実際の作例を載せていきたいと思います。

Leica SL2-Sとの組み合わせ

まずはデジタルライクな表現力を持つSL2-Sとの組み合わせ。すべて絞り開放のF2で撮影しています。
ピントが合った部分は、細い線の芯が通ったようにきっちりシャープ。それでいて、輪郭にはどこか球面レンズ特有のわずかな滲み(収差)を孕んでおり、デジタル現行レンズのような硬すぎる冷たさがありません。

F2という開放値ですが、被写体に寄ればボケ量は十分に大きく、普段F1.4の開放ばかり使っている自分でも「あ、スナップなら本当にこれで十分だな」と思わせてくれました。

植物の細かな葉脈やディテールもしっかり描き出されていますし、ライカ特有の光を孕んだ立体感も健在です。


ズミルックスのようなドラマチックで派手な演出はありません。でも、「普通にあるものを、普通に、美しく写す」。その衒いのない自然さが、実に心地いいのです。

Leica M10 Monochromとの組み合わせ

続いて、カラーフィルターを排したM10 Monochromでの撮影。

これが、想像を遥かに超えるほど相性が抜群でした。


移り変わる街の気配や、行き交う人々の佇まいを、作為なく、自然体で切り取ってくれる。


このレンズが持つ本来のポテンシャルは、モノクロームの階調の中でこそ100%活きるのではないか、そう思わせるほどお気に入りの組み合わせになりました。




SummiluxとSummicronの違いを改めて感じた

この6枚玉をしばらく使い込んでみて、一番深く実感したのは、やはり「Summilux」と「Summicron」は目指している世界(思想)が根本から違う、ということでした。

Summiluxは、「幻想やドリーミーな記憶」を写すレンズ。
光を意図的にまとわせ、周辺をドラマチックに歪ませ、感情そのものを写し撮るような妖艶さがある。

対してSummicronは、「現実」を写すレンズ。
街の雑踏。アスファルトの横断歩道。すれ違う人混み。信号待ちの刹那。
そんな何気ない日常の断片を、誇張することなく、そのままの温度感で淡々とフィルム(センサー)に定着させてくれる。

だからこそ、ズミルックスと同じように「レンズの強烈な個性で絵を作ろう」として使うと、どこか大人しく、物足りなく感じてしまうかもしれません。しかし逆に、主役をレンズの個性ではなく「街の呼吸そのもの」に委ね、空間の一部として切り取ろうとした瞬間、この6枚玉は恐ろしいほどの魅力を放ち始めます。
普通のものが、普通に、極上のおさまりで写る。それこそが、このレンズが持つ最大の魔力なのだと思います。




結論:普通を普通に写せるからこそ価値がある

最初は正直なところ、「欲しかった35mm Summilux 2ndが高くて買えなかったから」という、妥協に近い理由で手に入れたレンズでした。
しかし、実際に日々の生活に連れ出し、何度もシャッターを切るうちに、「あれ?これ、めちゃくちゃいいじゃないか……」と、じわじわとその凄みに気づかされることになりました。

 

最短撮影距離が70cmまで寄れる現代的な使いやすさもありますし、何より軽量コンパクトで、肩肘を張らずにいつでも街に持ち出せる気軽さがある。
今では自分の中で、
「作品としてのポートレートを撮る日はSummilux」
「何気ない日常の光をハントする日はSummicron」
という使い分けが、ごく自然にできるようになりました。

普通のものを、普通に写す。だからこそ、見慣れた日常を切り取るのが新しく、楽しくなる。これからもカメラに迷わず装着して、このレンズらしい気取らない写真をたくさん残していこうと思います。




PS.
……と、ここまでこのレンズへの愛着を熱く語っておいて本当になんですが、この購入から約1か月後、私のライカライフを揺るがす「まさかまさかの展開」が待ち受けていました。
その衝撃のお話は、また次回の記事でじっくり書こうと思います。お楽しみに。

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