やっぱりこのレンズに戻ってくるんだよな
50mmという焦点距離においては、1st(貴婦人)、2nd、そして4thと3本のズミルックスを所有している。それぞれに明確なキャラクターの違いがあり、どの1本にも代えがたい魅力があるからこそ、手放すという選択肢は頭の片隅にも浮かばない。
一方で、35mmもまた豊作だ。Summiluxの2nd(球面)と4th(ASPH.)、そしてSummicronの6枚玉という、ライカ史に名を残す名玉たちを揃えている。
どれも個性的で甲乙つけがたいレンズたちなのだが、35mmという画角に限って言えば、巡り巡って最終的に手を伸ばしてしまうのは、いつだって「Summilux 35mm F1.4 ASPH.(4th)」なのだ。
ふと気づけば、この「自分にとっての絶対的エース」を、モノクローム専用機であるM10 Monochromに装着してじっくり撮り歩いたことがまだなかった。
自分が最も信頼するレンズが、色情報を削ぎ落とした極上のモノクロセンサーの上で一体どんな世界を叩き出してくれるのか。期待を胸に、街へと持ち出してみた。
「ただモノクロにしただけ」の罠と向き合う
この日の天候はあいにくの曇天。実は、曇り空の下でモノクロ撮影をするのは思いのほか難しい。気を抜くと、ただ「カラーの写真をモノクロに変換しただけ」のような、平坦で退屈な写真になってしまうからだ。
いくらM10 Monochromが途途もないグラデーションと描写性能を誇るモンスターマシンだとしても、光の捉え方を間違えれば「これなら普通のカラー機で撮って後からモノクロ化した方が良くない?」という結果に陥ってしまう。だからこそ、いつも以上に影の落ち方や光の質感をシビアに見極める必要があった。
手すりの曲面に落ちる滑らかな光とリフレクション。開放寄りの浅い被写界深度の中で、視線と表情の質感が鮮明に浮かび上がる。ノスタルジーと現代的シャープネスの絶妙な調和
けれど、しっかりと光の捉え方を見極めてシャッターを切った瞬間、このレンズは期待を遥かに超える圧巻の描写で応えてくれた。漆黒のシャドウの中にも、なだらかに解きほぐされていく豊かな階調のグラデーションが存在する。この静かなトーンの深みには、思わず溜息が出る。
もちろん、この場の湿度や雰囲気を完璧に纏って表現してくれるモデル(日向恵理さん)の存在感と表現力があってこそなのだが、それにしてもこの写りは素晴らしい。
広大な海と曇天の空、遠く佇む橋。黒い衣装の引き締まりと、背景の柔らかな階調が見事な対比を描く。モノクロームという表現はどうしても「ノスタルジー」に寄りすぎてしまうきらいがある。しかし、Summilux 35mm 4thの描写はただ古臭いわけではない。どこかクラシカルな質感を残しながらも、ピント面の鋭さや線の細さに「現代的な凛とした佇まい」が同居している。このさじ加減が本当に絶妙なのだ。
直線的な建築の幾何学構造と、彼女の描く優美なシルエット。シャドウの中に埋もれない黒の粘り強さが光る。
F5.6あたりまで絞り込み、黒をしっかりと締めつつ白とシャドウを持ち上げるような現像を施してみると、画面全体がピシッと引き締まる。いやあ、この緊張感と立体感はたまらない。
さらに1段開けてF2程度にすると、開放特有の柔らかさが程よく整いつつも、ピント面の周囲にうっすらと薄いベールを纏ったような美しい気配が残る。解像力一辺倒の現代レンズにはない、ほんのり叙情的でポエティックな表情を見せてくれるのだ。
やりすぎず、足りなさすぎず。まさに「完璧なちょうど良さ」がここにある。
無数の選択肢の中で、本命へと還る場所
世の中には何万本というレンズが存在する。しかし、その中で心底「これは自分のためのレンズだ」と思える一本に出会える確率は、決して高くはないはずだ。
人によって惚れ込むベクトルは様々だ。「AFが爆速だから」「軽くて便利だから」という機能性で好きになったレンズは自分にも過去にあった。しかし、純粋に「吐き出す絵(写り)そのもの」の圧倒的な魅力に惚れ抜いたレンズは、後にも先にもこのSummilux 35mm 4thが初めてだった。
手元には35mmの選択肢としてSummilux 2ndもある。しかし、あちらは強烈な収差と癖を持つ「暴れ馬」で、正直なところまだ自分の中でもその手綱を掴み切れていない感覚がある。(2ndを買ってから3ヶ月以上経つがこれまで撮った写真を載せていない時点で、察していただければ幸いです笑)
どんな光の下でもこちらの意図に応えてくれ、被写体の魅力を最大限に引き出してくれるこのレンズには、そして毎回こちらの表現に付き合ってくださる被写体様には感謝しかない。
防湿庫にどれだけ名玉が並ぼうとも、結局最後はこのレンズに還ってくる。
もっともっと、このSummilux 35mm 4thという相棒を使いこなしていきたいと思わされた1日だった。
とはいっても他のレンズ使うと、やっぱいいなと思えてしまうのがまた悩みの種で、この日もSummilux 50mm f1.4 ASPH.を持っていきレンズを交換して撮ってきたので、次回はそちらも載せていこうと思う。
では。


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